なぜ「近世(=pre-modern)」なのか?
ちょんまげをゆった科学者、もしくは数学者。そう耳にしたとき、私達はある不思議な感覚をおぼえます。それは、私達が「近世」と「近代」という時代を、断絶した別世界であると認識していることに由来するのでしょう。
そして、日本という一国家においてえがかれる建築史は、いまだ、そうした「近世」という時代区分がはらんでいる認識のギャップを巧みに利用しています。それは、近世の不可思議さを隠し持つことによって、日本近代という時代に、かえって独自な彩りを添えているのです。
本書『近世建築論集』は、この構造を前提的問題として据え、日本近代の建築をより広い視座で眺め、検討することを目的としています。
本書は大きく3つの部から成り立つ予定です。
一つめは、「近世」という時代区分から、どのような前提的問題が生じるのかを、総論的に論じる部となります。
二つめは、日本建築の伝統的技術である「規矩術」に関する部となります。規矩術が内在していた(近代的)システムを明らかにし、それが近代にいかなるかたちで継承し、変容したのかを論じます。
三つめは、建築に関する言説が発生するための前提的基盤=「言葉」が、近世、近代を通じてどのように公定されたのかを論じる部となります。
なお、各論の執筆は中谷礼仁、大阪市立大学中谷ゼミナールによって行なわれています。
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