要約−Everything at two weeks


この本は、今なおインドネシアのメダンに残存する高床式住宅をめぐるものです。全体は大きく4つの章に分かれています。「Kehidupan(生活)」では、高床式住宅に住む人の生活に焦点を当て、「Sejarah(歴史)」では、高床式住宅をより広い視野からとらえ直せるような歴史をまとめました。「Bangunan(建物)」では、メダンの多くの高床住居が単なる古代以来のものではなく、同地方の特性を意味するムラユ的伝統と近代化との融合の上に生まれた住まいであることを、具体的な事例をもって示しています。また併せてそのメンテナンスにかかわる問題にもふれています。そして「Saran(提言)」において、それらのまとめとしてのいくつかの現実的提言をおこないました。

これは、日本を拠点としてアジアの都市再生を考えるARAC(Association of Rehabilitation of Asian Cities)が、アジア建築の知恵を蒐集・出版するグループ・アセテートとの共同作業をとおして、生み出した成果です。すでに2002年末、私たちはメダンに残る環境遺産をすべて調査し、600ほどの物件を蒐集しました。さらにそのなかから特に150件の事例を選び出し、それらをメダンにとって誇るべき遺産として位置づけました。

今回の企画は、上記の1年目の調査−私たちはそれをDiscovering Heritageと呼んでいるのですが−を受けて、そのねらいをさらに押し進めるために考案されたものです。それは私たちが去年末に「発見」した貴重な遺産事例を、確実に未来の世代へと手渡すための新たなステップとなるはずのものです。私たちはこの第二のステップを「遺産を育てる(Nurturing Heritage)」段階と位置づけています。要するにこれは、第一ステップで拾った原石を磨く行為に相当するのです。メダンにある「原石」とは、都市中心部のタウンホール、中国人コミュニティが作ったショップハウス、そしてここで扱った高床式住居です。しかし問題は、ではどうやって原石を磨くか、ということです。

今回の試みは、その一つの回答です。

村松伸, ARAC


acetate001, Rumah Panggung, Perahu di Kota

調査や研究が公になるまでには、通常、かなりの年数を必要としてしまいます。またその対象が自分にとって異国の地に属するものである場合、最悪の場合、現地にはその成果がまったく伝わらないこともあります。特に伝統的とか、庶民的な対象を扱う場合にはなおさらです。今回私たちは、このような通常のプロセスを廃棄し、新たなプログラムを創造しようと試みました。調査した成果をそのまま小冊子としてまとめ、現地で出版しようとする企画です。

第1年度の結果を踏まえ、今回の調査のテーマは事前に日本で決められました。しかし具体的な調査、分析、編集、レイアウト、イラストなど、1500部の小冊子を作るにいたるまでの詳細は現地で詰めていきました。日本からいろいろな特技をもつ人が集まり、そしてインドネシアのボランティアの学生たちと共同して、それらを2週間で実行しました。本にしたのは、誰もが、どんなところでも読めるからです。メダンの人々に本書が出会えることを期待して、およそ1000部をメダンでのパートナーであるBWS(Badan Warisan Sumatra Heritage Trust)のもとに置いておくことにします。

できた本は大樹というよりは一粒のランプータンのようなものになりました。それはいたって小さい成果です。でも、もしその一粒がおいしければ、人はその源の樹を探ろうとするでしょう。私たちはそういう小さいけれども美しいものを作ってみたかったのです。より詳細な住居の変遷、再生のための具体的情報の網羅などできなかったことは多々あります。でも、それは今後に多くの人々と共有されるべき課題として、残しておくことにしましょう。

中谷礼仁, 編集出版組織体アセテート






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